第2章 逢瀬
いやただの姫君ではないのかもしれない。
彼女は謀反を企てている武将の娘であり、何かを知っている筈なのだから。
だが今此方が探っているのがバレてしまえば危険かもしれない。
(慎重にしなきゃ駄目だな)
秀吉は心の中で、察しが良いことに驚いた自分を沈めてから微笑みを浮かべた。
その微笑みはあの光秀のを真似たもの。
「いえそんな事はないです。ただ俺は貴方を知りたいだけですので」
『嘘がお上手ですね』
「ははっ…嘘くさく見えますかね」
『その笑顔が嘘臭く見えます。作り笑いお下手なのですね』
スラスラと達筆な字でそう言われてしまい、秀吉は参ったなと思った。
ここまで鋭く直球で聞いてくるとは思いもしなかったからこそ、秀吉は悩んでしまう。
やはり自分はこういうのは向いていない。
光秀なら簡単に騙せたりしたのだろうか…そう思いながら朱里を見た。
「貴方は鋭いですね」
『そうでしょうか』
「色々直球ですから、此方がたじろいでしまいます。朱里殿は察しが良くて鋭く他の姫君とはちょっと違います」
『違うとは?』
「そう…ですね。俺に靡いてくれない所とかでしょうか?」
秀吉のその言葉に朱里は少しだけ目を見開く。
そして直ぐに眉を下げながら微笑み、視線を秀吉から外すと街の風景を眺める。
すると団子が届いて、団子屋の店主は頭を下げてからすぐ様に去っていく。
そして秀吉は朱里の横顔を見る。
「団子食べましょうか…?」
『はい いただきます』
朱里は団子を1つ取ると綺麗な動きで団子を小さな口で齧り付いて食べる。
そして口を動かしながら美味しそうに食べていた。
「美味いですか?」
そう尋ねれば彼女は頷いた。
頬は桃色に染まっており、口元は小さく弧を描いており優しい雰囲気になっている。
(そんな顔もするんだな…)
秀吉も団子を口にする。
そして本来の目的を思い出して、のんびりしている場合ではないと目を見開く。
(この姫を誑かして!乃木の情報を手に入れなきゃいけねぇんだ!!)
信長からの命を果たさなければ。
そう思い横を見れば朱里は嬉しげに団子を食べながら、周りを見ては笑みを浮かべている。
何となくその表情を崩したくなくて秀吉は口を閉じてから、同じように風景を見た。