第2章 逢瀬
その名前は朱里も知っていた。
伊達政宗と言えば仙台の独眼竜とも呼ばれる武将。
そして織田信長と同盟を組んでいる。
何時ぞや乃木が話しているを耳にした朱里は、伊達政宗が菓子作りをおしえた…その言葉に驚いた。
二刀流で戦では大暴れする人間とも聞いたことがある。
「ええ。政宗はまるで料理人とも言える腕前なんです」
『それは初耳でした』
「なかなか武将で料理人のような腕を持つ者はいませんからね」
秀吉はそう政宗を褒め称えながら、空いている席へと朱里を案内した。
そして腰をかけてから秀吉は餡蜜と、きな粉餅を店主に頼む。
「おい、あれ秀吉様じゃねぇか」
「本当だわ。ちょっ、あちらの女性は誰なの!?」
店に入れば、秀吉を知っている物がザワついていた。
見知らぬ女といればそうだろうが、ジロジロと見てくる視線に朱里は居心地が悪く感じる。
たださえ注目を浴びるのは苦手な彼女。
なのに今は視線の的となり、しかも女性からは嫉妬に近い視線を向けられている。
「大丈夫ですか?」
『何がでしょうか』
「外の席に変えてもらいましょうか」
朱里の心を読んだのか、はたまた顔色で分かったのか。
秀吉はそう言うと立ち上がり、店主に話をしていた。
そんな彼をみて朱里は少し目を見開く。
「外の席に行きましょう。店の裏にありますから、そこなら居心地は多少は良いでしょう」
『有難うございます』
秀吉は微笑みを浮かべてから、朱里を案内する形で裏の席に向かう。
店の裏は川があり、人もいなければ店もなく静かである。
視線が無くなると朱里は少し息を吐く。
落ち着ける訳では無いが、多少はマシになったと思いながら湯呑みに口を付ける。
「所で…何故今回俺と会いたいと手紙をくれたのですか?」
秀吉は唐突にそう質問をした。
その質問に朱里は一瞬動きを止めたが、直ぐに書本にスラスラと文字を書いていく。
何を書いているのだろうか、何を思って手紙を寄越したのだろうか。
秀吉は内心ドキドキしながら書き終わるのを待つ。
『秀吉様は、私から何の情報を手に入れたいのですか?』
その文字に秀吉は一瞬目を見開いた。
此方の目的が知られている事と、ただの姫君に悟られた事に驚く。