第2章 逢瀬
「っ……!」
『あのどうかされましたか』
あまりにも辺りをキョロキョロする秀吉が不思議で、朱里は眉間に皺を寄せながらそう聞いた。
落ち着かない様子に挙動不審の様な行動。
何かあるのではと考えていた朱里は、秀吉と同じように辺りを見渡す。
だけど何も珍しい事やおかしい事は無い。
「いえ…。その勘違いかもしれませんが、誰かに見られているようで」
『秀吉様が見かけない女と歩いていると、町の人も見るでしょう』
「確かに…そうですね」
朱里の冷静とも言える言葉に秀吉は苦笑い。
だがその目線は町の人間とは思えないぐらい、ギラギラしたような物。
しかも気配を上手く隠しているのだ。
町の人間ではないのは確かなのだ。
そう思いながら秀吉は頬をかいてから一つ溜息を零す。
もし敵の人間ならば警戒しなければ…そう思いながら足を進める。
「あっ、着きましたね。席が空いているか確認してきますので、少しお待ちを」
そう言うと秀吉は茶屋の中へと。
店の中からは楽しげな声が聞こえており、賑やかだなと朱里は思いながら辺りを見る。
彼女が住んでいる所にも勿論城下町はある。
だけどここまで賑やかでもなければ、商売繁盛といったわけではない。
貧困もあれば強盗もいる。
信長の傘下の武将の城下なのに、平和でもなければ安心した場所ではないのだ。
(まったく違う…人もこんなに楽しげじゃないわ)
町の人間は乃木により、戦に駆り出される時もある。
そして今は『狩り』という名の何かにも駆り出されており、何か起きている事は確かなのだ。
(でも父上は教えてはくれない。家臣も、足軽達も全員)
何が起きているのか朱里は知らない。
本当に父親が謀反を起こそうとしているかも分からないのだ。
何時も朱里は蚊帳の外であった。
何があっても彼女は蚊帳の外で聞かされる事はない。
まるで居ないもの扱いされているようだった。
「朱里殿、席が空いてましたので入りましょう」
茶屋から戻ってきた秀吉は、柔い笑みを浮かべながらそう言い朱里は頷いた。
そして二人で茶屋へと入ると、更に賑やかな声が耳に入る。
「やはり人気な茶屋。繁盛しているな…流石政宗が菓子作りを教えただけもある」
『政宗とは、伊達政宗様?』