第2章 逢瀬
それを見るなり由良は満足げな笑みを浮かべて、何も言わずに去っていく。
後ろには由良の女中達がいるが含みのある笑みを浮かべていた。
由良が居なくなるのを見届けた朱里は、少し唇を噛み締めており手を握り締めると歩き出す。
それを綾は慌てて追いかけた。
「姫様……」
「朝から母上に会うなんて…付いてない」
そう言葉を零す朱里に綾は眉を下げた。
これだけで分かるが、朱里は母親とは仲が良くはない。
昔からこうであり由良は彼女を育てたことも無い。
乳母に丸投げして、赤子の頃は母乳だって与えた事はなかった。
ただ愛情も注ぐ事はなく成長も喜ぶ事は無い。
「お祖母様に…会いたい」
「そうですね…。今度、会いに参りましょう」
「そうね」
そして朱里は城の門の前で綾と秀吉を待つ。
すると遠くから馬の鳴き声と、蹄の音が聞こえてきて目を前に向けると秀吉が馬に乗って走ってきていた。
秀吉の姿が見えると綾は眉間に皺を寄せた。
やはり綾は秀吉の事が好きになれないようで、その理由は大切な姫に言い寄るからだろうか。
「お待たせしました、朱里殿」
『いいえ、先程来たばかりですので』
朱里は直ぐに小さな空白の書本に文字を書く。
そして秀吉に見せると、小さく笑みを浮かべて秀吉も笑みを浮かべた。
「では安土の城下に参りましょう。馬には乗れますか?」
『問題ありません』
秀吉は朱里へと手を差し出す。
その手に少し戸惑い、どうすれば良いのだろうかと考える朱里はチラッと隣にいる綾を見た。
すると秀吉は苦笑いしながら、その朱里の手を取り軽く握る。
まさか握られるとは思わず朱里は目を見開いた。
「馬に乗るのに、支えが必要でしょうから」
秀吉は手を取ると、馬の近くまで連れてきて『失礼する』と言い朱里の腰を両手で掴むと持ち上げる。
まさかの持ち上げられた事に流石の朱里も驚き、頬を赤く染める。
その様子を見て彩は眉間の皺を更に深くした。
近付くのも嫌なのに、触れて持ち上げるなんて言語道断。
怒って叫びたいが朱里に怒られるので我慢する。
「では参りましょう。彩、暫し朱里殿をお預かりするぞ」
「はい。どうぞお気を付けて」