第1章 茶会での出会い
そう光秀は言ったが、実は朱里に対して興味があった。
噂では勉学に重んじて海外に興味があるとか。
そして朱里は両親と仲がそう良くない等、部下を通してその噂を集めた。
唯一気になるのは両親との仲。
他の噂では娘を溺愛していると聞いていたが、乃木は娘を邪険に扱っている。
北の方は娘に手を挙げている等々。
(これは秀吉には伝えないでおこう。余計な事を言ったら怒るかもしれんからな)
光秀は意地の悪い笑みを浮かべてから、秀吉の肩を叩いてから何も言わずにその場を去っていく。
その後ろ姿を秀吉は嫌そうな顔で見ていた。
「アイツは結局何が目的だったんだ」
「まぁ半分秀吉さんを揶揄いに来たって感じでしょうか。乃木も訳が分からないけど、俺はあの人も訳が分からないですよ」
「確かにな……はぁ。じゃあ俺は御殿に戻るから」
「はい。足止めしてすみませんでした」
家康と別れた後、秀吉は御殿に戻ってから部下を呼んで朱里が声を出せなくなった理由を探らせるよう指示をした。
❈❈❈❈❈❈❈❈
〜乃木家〜
秀吉が帰っていき、夕日が見える時間帯となった。
城の二階から朱里は外を眺めながら、呉千代が産んだ
子犬を抱きしめる。
(暖かい……)
子犬の体温に何処か安堵を覚えながら、今日来た秀吉の顔を思い浮かべる。
何かを探っている様子はあった…恐らく父の事だろうと考えながら子犬を撫でた。
父が謀反を企てている…そのような噂はきちんと朱里も知っていた。
だが自分がそれを止める事はで出来ることも無く、それを止める義理もない。
「下克上の時代……いつ謀反を起こされたって可笑しくはない。信長様は…何故父を野放しにするのだろう」
「姫様……」
「大うつけものと呼ばれる理由が分かるかもしれない」
大抵謀反の疑いがある者は殺される。
なのに信長は乃木を野放しにしており、攻めてくる様子もない。
だが秀吉を近付けて来たと言う事は何かを探っている。
乃木が本当に謀反を起こそうとしているのか…そう探っているのだろうか。
「どちらにしろ、秀吉様は厄介なお方だね」
「探って来ていましたからね」
「私なんか探っても、時間の無駄だと思うけど」
何処か悲しげに朱里は呟いて、また子犬を撫でていく。
遠くからは鷹の声が響いた。