第1章 茶会での出会い
その鷹の声は父である乃木の私有物の鷹。
座っていた朱里は腰を上げて、城の外を見ると父達が帰って来ていた。
普通ならば帰ってくる事に歓喜するだろう。
だが朱里は何処か暗い顔をして、帰ってくる父や母を眺めていた。
まるで帰ってきたた事が喜ばしくないように。
「父上達が帰ってきた…」
「姫様……」
「部屋に戻るね……顔を合わせたくないもの」
朱里はそう綾に言うと、子犬を抱えて自室へと戻っていく。
城内は残っていた侍達がバタバタとしている。
『殿が戻ったぞ!』や『お方様もお戻りだ』等あわだたしく動いていた。
だけど侍達は誰一人朱里を見る事が無かった。
まるでそこに居るのに居ないようにされているかの様だ。
そして朱里は自室に戻ると、子犬を抱えたままその場に座り込んだ。
「城から…出ていきたい……」
震え混じりの言葉は誰にも届く事はない。
ただ慌ただしい城の騒音に掻き消されていき…朱里はただ子犬を抱き締めるのみ。
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〜安土城〜
乃木家に向かい翌朝を迎えた秀吉は、仕事をする為に信長がいる御殿へと向かっていた。
だがその途中部下に呼び止められる。
「秀吉様!」
「ん?どうしたんだ」
「文が届いております。乃木家の姫、朱里姫様からでございます」
「朱里殿から?」
急に何故文が…と思いながらも秀吉はその文を受け取った。
文の裏には『朱里』と彼女の字で書かれた名前があったので、本人からの物。
首を傾げながらも、秀吉はその場で手紙を開く。
そこには達筆で書かれた文書があり、そして『秀吉様の予定が空いていれば会いたい』と書かれている。
「予定が空いてれいば……何のつもりだ?」
自分から茶屋に行こうと誘ってはいたが、まさかあちから会いたいと言われるとは思っていなかった。
だがこれは良い機会かもしれない。
そう秀吉は思い、信長に会ってから返事を書くことに決めて天守閣へと足を進めた。
手紙を懐に入れて少し笑みを浮かべながら。
「何を企んでいるか分からないが……この機会を利用させてもらおう」
でも綾が着いてくるかもしれない。
そう考えると厄介だと思ったが、なんとか綾にバレずに聞き出そうと決め込む。
「俺の予定は…いつ空いていたかな?」