第1章 茶会での出会い
〜三人称〜
秀吉は乃木の城にて感じた違和感を信長に全て報告した。
娘と数人の従者を置いて城を出ている事等や、大人数で出掛けている事を。
話を聞いた信長は、指で顎に触れながら眉間に皺を寄せて何かを考えていた。
乃木が何を企んでいるのか考えているのだろう。
「もう少し様子を見ろ。まだそれでは謀反を企んでいるという、確信を持てんからな」
「はい。俺も最善を尽くします」
「ああ、下がれ」
秀吉は頭を下げてから天守閣を後にする。
そして自分の御殿へと向かう最中、ふと乃木の城に着いた時を思い出した。
あの時、部屋から自分を見ている朱里の姿が見えたが口が動いている様に見えた。
まるで綾に喋っているかの様に。
「本当は喋れるのか……」
一瞬そう思ったが、ならば何故筆談という面倒な事をしているのだろうか。
そう思いながら少し首を傾げる。
「そういえば……とある事に巻き込まれて喋れなくなったと言っていたな」
信長は理由を知らないと言っていたので、聞いても分からないだろう。
ならば本人に聞くか綾に聞くかだろうか。
それとも乃木家に間者を入れて、姫の事や謀反の事を探らせるか。
秀吉は色々考えながら足を進めていく。
「あっ、秀吉さん。帰っていたんですね」
「ああ……家康か」
「どうでした、乃木家は」
「違和感だらけだな…」
秀吉は一応家康にも乃木家の事を伝えた。
すると眉間に皺を寄せて、不思議そうな表情を浮かべる。
まるで乃木のしている事が理解できないと、言いたげに。
「城をそんな手薄にして…もし攻められりしたらどうするつりもなんでしょうね。しかも娘を置いてとか」
「訳が分からないだろう?」
溜息をつく秀吉と、眉間に皺を寄せる家康。
その様子を遠くから光秀が見ており、怪しい笑みを浮かべながら此方に歩いてくる。
「どうした秀吉よ。誑かすのに失敗でもしたか?」
「失敗してねぇ!」
「だろうな。普段から女を誑かしているのだから」
嫌味とも聞こえる光秀の言葉に秀吉は、苛立ちながら睨み付ける。
だが効くわけも無くて光秀はただ笑っていた。
やはりその笑みに腹が立つ。
「お前が嫌なら俺が誑かそうか?」
「俺が信長様に命令された仕事だ。余計な事はするなよ……光秀」
「ははっ。分かった分かった……」