第1章 茶会での出会い
農民の出身。
俺は確かに農民の出身であり身分が低かった。
だが信長様を追いかけて今はこうして家臣まで上り詰めたが未だに俺を『農民風情』と言うの者は少なくない。
此奴も俺をそう思っているのだな、と思ったぐらいで怒りはそんなに無い。
すると朱里殿は険しい表情を浮かべて、綾に近づくと本に文字を書き出してそれを彼女に見せる。
何を書いたのだろうと思い、少しだけ覗くとそこには『お客様に対しての言葉ではありません。謝罪しなさい』と。
この姫は出来ているなと思った。
大抵の姫は俺に擦り寄るが『農民風情』だからと馬鹿にした。
「……申し訳ありません、姫様。秀吉様、言葉が過ぎました、申し訳ありません」
綾は意外と素直に謝る。
やはり主人である朱里殿にはちゃんと従うのだろう。
そう思っていると彼女は此方を振り向き頭を下げてきた。
「姫様っ!」
「朱里殿、頭を上げてください。俺は気にしていませんので」
『綾が本当に申し訳ありませんでした。お詫びをさせてもらえないでしょうか?』
頭を上げた彼女はそう本に綴り俺に見せてきた。
最初は詫びなどは要らなと言おうとしたが、ふとある事を思いついてしまう。
詫びという事で父親である乃木の情報を教えて貰うこと。
それならば簡単に聞き出す事が出来るかもしれない。
思い付いたならば動くのみ。
俺はそう決意してから朱里殿を見た。
藤色の瞳は揺らがずに此方を見ており、不思議と綺麗だなと思ってしまう。
「……では俺と逢瀬をしませんか?」
「はっ?」
口から出たのは思っていたのと違う物。
いやちゃんと計画があって『逢瀬をしよう』と伝えた。
何せ情報を聞きたくても何処で誰が聞いているか分かりやしない。
綾もいる為恐らく此処で聞き出すのは難しいだろう。
ならば逢瀬という名前を使い外に連れ出す。
そこで二人きりになって情報を聞き出して、俺は仕事を終わらせる。
この面倒な事から解放されるのだ。
「今度また予定が空きましたら、二人で馬に乗って出掛けませんか?」
『馬で、二人きりですか?』
「はい。馬はお嫌いですか?」
『いいえ、生き物は好きですよ』
生き物で思い出した。
俺の着物の懐でゴソゴソと動いている温もりの存在をそっと取り出して畳の上に立たせる。
「ウリといいます」