第1章 茶会での出会い
朱里は微笑みながらまた外を見る。
すると馬にまたがり此方にやって来る秀吉の姿が見えた。
『物好き』と言ったがどうせ父の事について近寄ってきただけと知っている。
「綾、来られたわ……」
「迎えに行ってきます。姫様はお部屋に」
「うん、ありがとう。綾大好きよ」
「急になんですか……。私の方が大好きです」
負けず嫌いな性格である綾はそう言ってから天守閣から出ていき、そんな乳姉妹の彼女に微笑みながら朱里も天守閣から出て自身の部屋へと向かった。
今日は父がおらず、また家臣達も出払っている。
場所は聞いていないが狩りに行くと今朝言っていた。
最近やけに狩りに行く事が多いが、どうしてなのだろうと朱里は考えた。
「父上は……何をしたいのだろう」
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綾は城の門へと向かい秀吉が来るのを待つ。
そして秀吉が馬を走らせて目の前にやって来るのを見て、軽く舌打ちをした。
勿論その舌打ちの音は秀吉に聞こえており、随分嫌われているな……と苦笑い。
慌ててやって来た侍達が秀吉が乗っていた馬の手網を引っ張り、秀吉は降りる。
「ようこそ、豊臣秀吉様。姫様はお部屋でお待ちですのでご挨拶します」
「ああ、すまないな」
棘のある言葉を発した綾は秀吉から顔を背けて歩き出した。
背中から伝わる不快感。
(嫌われているな。いや、乃木家で何かあるから俺を警戒しているのか?)
初めて乃木の城に来たが意外に小さい。
そして人気がそんなに無いがどうしたのだろう……と見守っていると遠くの方に女中が固まって此方を見ている。
「綾、乃木は出払っているのか?」
「殿なら家臣達と狩りに向かっております。最近は多いですよ……城に朱里様だけ置いてですけど」
「奥方も行かれているのか?」
「はい、お方様もです……。ですので城には最低限の人間なんてしかおりません」
少し秀吉は驚いた。
信長の領地でもあるし、今は戦が無いので安全だが人手が少なくなるまで狩りに連れていくものだろうかと悩んだ。
しかも一人娘を置いた状態でだ。
そして乃木家に少し違和感を感じた。
「奥方の名前は確か……由良殿だったな」
「はい。由良の方様です」
「そうか……」