第1章 茶会での出会い
秀吉の方にはウリがいた。
ウリ自身は何処に行くのだろう……と思っているのか当たりをキョロキョロしている。
「ああ。動物でもいたら多少は警戒心も解けるだろ」
「まぁ女は大抵可愛いのは好きだけどな」
ウリを少し撫でてから、馬に乗る準備をする。
乃木の城はそんなに離れてはいない。
なんせ信長の領地に城があるので、馬で行けばそう時間はからからない。
愛馬を撫でて『よろしくな』と秀吉は伝えてから、馬に跨った。
そして下にいる政宗を見る。
「じゃあ行ってくる」
「気をつけてな」
「おう」
そして秀吉は乃木の城へと向かった。
向かう道中朱里とどんな話をすれば良いだろうか……と悩んだ。
女の扱いは別に不得意ではないし、自慢ではないがそこそこの経験はある。
だが相手は言葉を発することが出来ず、また他の姫より警戒心が強い。
先の茶会での時と散々困った。
「あの姫は……父親が謀反を起こす事を知っているのか?」
そうならば自分に警戒心が強いのは納得がある。
だがそうじゃなければ普通に警戒心が強いだけ……。
「分かんねぇな」
「キキッ」
「ウリ、今日はお前も仕事だぞ。帰ったら褒美やるな」
そんな中、朱里は城の天守閣で城の外を眺めていた。
今日は父の君主でもある信長の右腕である秀吉が来る日であるのでいつ来るのだろう……と考えながらボーとする。
茶会で話しかけられた時、驚いた。
自分に話しかける人間なんてそうおらず、煙たがらるか遠回しに陰口を言われるだけ。
「姫様、まさか豊臣秀吉が来るのを待っているのですか?」
後ろにいた綾は少し不服そうな声でそう聞く。
すふと朱里は振り向いた。
「うん、そうよ。待ってるの……物好きな家臣さんを」
「物好き……。姫様はお美しいですよ」
「そんな事無いわ。普通の顔だし、それに男性の前では喋る事が出来ない……うんうん。綾の前だけしか喋れないもの」
朱里は実は喋る。
正確には女中の綾の前だけでは喋れるのだ。
それ以外の女中、家臣しかも親の前では喋る事すら出来なくなっていた。
「それは!あの騒動のせいです!!」
「そうね……。だけど喋れなくなったのは私の心の弱さのせいだから」
「姫様……」