第1章 屋上で
「・・・鐘鳴っちゃった。私、次英語です」
屋上でチャイムの音を聞き、昼休みの終わりを知った。
フェンスに寄り掛かり座っていた足を立たせると、私に続いて先生も立ち上がる。
「クソだりいな、午後の授業。最近の中学はまともに数学教えて来ねえんだよ。なりたて高校生のアホさっつったらねえ」
「そのアホな高校生に愚痴らないでくださいよ。指導要領気に入んないなら文科省にでも喧嘩でも売ってきたらどうです?」
「お前くらいの切り返しできる奴がクラスにいりゃこの仕事も悪くないんだろうな」
「・・・先生って変わってますよね。普通嫌がられますよこんなこと言ったら」
やっぱり教師っぽくない。
でもちょっと嬉しくなくはない、かもしれない。
言わないけど。
からかわれるから。
「先生、きっと向いてないんですよ教師。なんで今の仕事選んだんですか」
ドアに向かって二人で歩きながら先生に問いかけた。
やる気のない様子でズボンのポケットに手を突っ込んで歩いている先生は、さあなと首を傾げて言う。
「なんとなく教育学部出て、なんとなく教員試験受かって、なんとなく教職祝いて、なんとなく続けてる」
適当だ。
「・・・この質問って教師なら結構されますよね?いいんですか、その答え。教師目指してる人間にもそんな事言うんですか?」
「お前、教師志願なのか?似合わねえ」
「違いますけど・・・。そいこと言ってんじゃないし、ちょっと失礼すぎます」
溜息をついた私の後ろで、ドアが重く音を立てた。
先生は鍵を取り出し、ガチャガチャと施錠して喫煙の隠蔽工作を図っている。