第1章 屋上で
「高い志なんてサムいこと言ってられるかよ。バカなクソガキ共相手に真面目にぶつかってたらいつか本気で気が狂う」
「・・・そこまで言うのは先生くらいですよ。そんなんでよくここまで続けてこられましたね」
「言ったことねえからな、こんなこと。本音と建前ってのは使い分けが重要なんだよ」
不敵に笑うこの人。
先生に向いている職業は詐欺師だ。
「・・・いいんですかそれ私に言って。うっかり口滑っても知りませんよ」
階段を一階分降り、職員室のある西校舎と教室が並ぶ東校舎側とを繋ぐ渡り廊下に出る。
珍しくも小さく声に出して笑った先生は、そう言った私の頭を無造作に撫で付けた。
あと数分で授業が始まるという時、教室からはがやがやと三年生の話し声が漏れ聞こえてくる。
だが今この通路には誰もいない。
「誰も信じねえよ。言わねえしな、お前は」
「・・・なんでそう思うんですか」
先生の腕を払う。
先生は悪戯を思いついた子供のような顔をして笑っているが、その雰囲気は私にはまだ無い、どこか大人のそれだった。
「Birds of a feather flock together」
「は?」
「初めてお前を見た時思った」
突如数学教師から英文を口に出され、訳が分からずぽかんと先生を眺めた。
反対側の校舎へと続く通路に、先生は足を向けて目を和らげる。
「真面目に英語の勉強してくることだな」
背を向けたまま私に向けて軽く手を振り、そのまま歩いていく先生。
ベタなドラマのワンシーンのような去り方だが、先生がやると妙に似合ってしまうから癪だ。
先生が通路の角を曲がるのを茫然と見届け、そして私も一階まで階段を下りて行った。
教室に入るとすぐに本令が鳴り、私は英語の授業中に先生の言っていた英文を辞書から探し出した。
Birds of a feather flock together.所謂、類は友を呼ぶ。
嬉しくない先生の認識を知り、不本意な仲間意識に私の顔は思いっきり引き攣った。