第4章 大人の階段
「・・・他人をこの部屋に上げたのは初めてだ」
「はあ。そうですか」
それがなんだ。
そう思って呟くと、持っていた煙草を灰皿に置いて先生は言う。
「興味無さそうな声を出すなよ。わざわざ車出して迎え行って、愛想のねえガキをこうやってもてなしってやってんだぞ?」
「恩着せがましいです。呼び出したのは先生でしょう。なんか物騒な内容で」
「分かってんじゃねえかよ」
先生は目を細めた。
腕を伸ばして灰皿の上のまだ長い煙草を消し、ソファーに座ったまま私との距離を少し縮めた。
着信に応じなかったら犯すと、この人から夏休み前に言われたのは覚えている。
だけど花火の最中、出るに出られない状況で電話が掛かってきたついさっき、私が応答を見送ったのは不可抗力だ。
第一まさか本当に電話に出なかっただけで犯されるなんて有り得ない。
異常犯罪者にも程がある。
だが相手はこの人だ。
真っ当な考えを武器に挑もうとした所で、先生に常識は通用しない。