第1章 屋上で
だがドアを開く前に呼び止められて、私はか弱い仔リスみたいな気分でその人を振り返った。
彼は私に近付いてきて目の前で止まる。
手には変わらず煙草を持っているのを、成長期途中の私は気まずい思いで見上げた。
入学早々説教かと、そう思って気落ちした私の内心は、しかしその言葉によってあっさりと裏切られる。
「チクんじゃねぇぞ」
「え?」
「コレ」
「・・・・・・は・・・?」
煙草を持った手を私の前に翳し、無表情にしれっと言ったこの人を呆気に取られて眺めた。
多分、リヴァイと言う名前だったか。
立ち入り禁止とされている場所にやってきた生徒を、しかりつけるでもなく場違いなことを言ってくる。
「校内完全禁煙だからバラされると割と怒られる。校長は嫌煙家でうるせえし。言うなよ」
「・・・・・・はあ」
「俺も見逃してやるよ、不法侵入現場。お前ずいぶん器用だな。一年だろ?何組だ?」
ふざけているのだろうかと、この時私は思った。
いかにも厳しそうな見た目の割に生徒の粗相には理解のある教師で、遠まわしに許してくれているのだろうかと。
しかしそれは全くもって私の見当違いだったようで、この教師は屋上喫煙の常習者だった。
きちんと着こんでいるスーツの裏ポケットには煙草と携帯灰皿が忍ばされている。
そしてその事実を私がそれを知るまでには、この時から大して時間もかからなかった。