第1章 屋上で
立ち入り禁止の屋上に足を踏み入れたその時、私はフェンス前に寄り掛かるスーツ姿を目にして咄嗟に手の中の針金をスカートのポケットに仕舞い込んだ。
重い金属扉が開いた音で気づき、こちら側に体を向けていたその人はゆっくりと立ち上がった。
高校の屋上には余りにも不釣り合いな顔。
やくざバリに人相の悪いその人の手元には、火の点いた煙草が。
「あ、の・・・・・・すみません。すぐ戻ります」
煙草が気になるもののその人がこの学校の教師だとは知っていた。
入学式で担任紹介の時に挨拶をしていた一人だ。
確か数学担当で、受け持ちのクラスは一年一組だったと思う。
私のクラスは八組で数学担当も別の教師だから、この人とちゃんと顔を合わせるのは初めてだった。
今は昼休みであって決してサボリではない。
しかしここは立ち入り禁止の場所でもあるし、どうやって入ったなどと責められては困ると言うのが一つ。
そしてもっと切実な心境として、ガン見どころか射殺されそうな視線とともに睨まれ、ヒシヒシと身に突き刺さるこの恐怖感が非常にやばい。
後ろを振り返りドアノブに手を回すのは当然の行動だった。
「待てよ」