第3章 夏休みのご予定は?
先生は私の髪を指先で弄びながら口元に狐を描いた。
「自分で聞いたんだから責任持て。一個だけかなり重要な思い出あるから言わせろ」
言いたいのか。
何を聞かされるのか少しだけハラハラする。
高校生相手に話すには、相応しくない内容だけは言わないでほしい。
だが先生が発した最初の一声は意外なもの。
「俺がどうやって煙草の味覚えたか」
「・・・・・・は?」
「当時、若かりし俺は十八歳」
「ちょっと。未成年」
妙な語り口調で話しだした先生に脱力させられた。
過去の女の話かと思ったら非行少年時代の話だった。
ところがこれを私に向かって言う先生には別の意図があったようで。
「バイト先の先輩に、バブル時代の生き残りって感じのなんかハデな女がいたんだよ。ボディコンも肩パッドもやめて現代風アレンジでもしたような」
説明が分かりにくい。
生まれた時はバブルがとっくに弾けていた私はついつい顔を顰めた。
「年は五つ六つ上だったか。まあまあ美人だが酒豪でスモーカー。そんなとんでもねえ女に、当時からモテてた俺は喰われた訳だ」
「結局猥談に行く流れですか。自分でモテてたとか言うし」
「思春期だろ。引かないで食いつけ。普通お前くらいの生徒にこういう話すると喜ぶんだぞ」