第8章 結局格好いいリヴァイ先生
この部屋には私一人。
目についた自分の右手をぼんやりと眺めた。
ベッドの上で先生が隣に居る時、こうして私が背を向けると必ず後ろから引っ付いてくる。
今も声は耳元で聞こえているのに、抱きしめてくる鬱陶しい手がここには無いのかと思うと変な感じだ。
「・・・・・・で?」
また話が逸れる前に、早いところ本題とやらに入って電話を切りたい。
目の前にいない先生と言葉だけのやり取りをしているとムズムズしてくる。
それがなんでなのかは知らない、というか考えない。
でもなんと言うのか、こう・・・・・・。
とにかくムズムズする。
しかし最後に急かした私の問いに応えた先生は、いつも通りなんとも急だった。
『明日午前十時。ホテル・シーナに来い』
「は?」
身代金の受け渡し要求じゃないんだから。
もっとあるだろ、他にも言い方。
『いいな。必ず来い』
「私その時間は約束が・・・」
『先約なんて断れ。相手誰だ男かコラ』
「友人です。だいたい私、そんなホテルのドレスコードなんて分かんないですよ。ていうかそれっぽい服持ってません」
『適当でいいんだよンなもん。つべこべ言わずに来い。ウマい物食わせてやるから』
とうとう人を餌付けようとしてきた。
シーナと言えば誰もが知っている老舗の高級ホテルで、最近では宿泊客以外にも提供されるランチタイムのビュッフェが評判だ。
ホテルが五ツ星であればレストランも最高位であるのは当然の事であり、同じクラスにいる大食いの友人がその特集が組まれた雑誌を持って発狂していたのを覚えている。