第7章 勘違い
「・・・・・・か・・・可愛い冗談じゃねえか」
どもった。
「あなたが言うとシャレにならない・・・」
それを極力突き放すように一言。
先生の顔からは完全に表情が消えた。
元より基本は無表情な人がさらに能面みたいな顔つきをし始めると色んな意味で迫力がある。
真夏の暑い夜に怪談話をこの顔でされたら心停止する人間が一人くらいは出るのではないだろうか。
しかしそれでも尚、訴えかけてくるような眼差しは健在。
面倒極まりないダメな大人の仕草にまたまた溜息をつき、その肩に触れて押し返そうとすると反対に腕を取られた。
痛くはないけど、縋るように手首を掴まれて動きも止まる。
「・・・・・・なあ」
「なんです」
「・・・後生だ。大っ嫌いはやめろ。物凄く傷付く」
後生って・・・・・・。
ぼそっと、なんだか本気で込み上げてくるものを堪えているかのように言われ、思わずぽかんと呆気に取られた。
掴まれた右手首はそのままに、もう片方の腕を私の体に回すとぎゅーっと抱きついてくる。
「メイリーよ。泣きそうなんだが・・・」
「・・・・・・」
マジかよ。
まずいな、いま鼻啜ったよこの人。
いやでも駄目だ騙されるな。
ここで甘やかすからこの人はつけ上がる。
たまには私だって厳しい所を見せないと、またいつこんな誘拐ゴッコを実行されるか分かったものではない。
ついつい差し伸べてやりたくなる手を寸前の所で堪え、あくまで冷たく聞こえるようにしれっと投げ打った。