第6章 見合い?
「早くしろ」
「そう言われても・・・・・・」
「何も悩む事はねえ、たった一言だ。『離さないで先生傍にいてかっこハート』、それで済む。簡単だろう。語尾のハートは決して付け忘れるなよ」
「・・・・・・」
この人本当はバカなんじゃないだろうか。
かっこハートは口で言えばいいのか。
背筋も凍る低温でそんな事を言葉に出されても全くトキめかない。
今すぐ放してもらいたくて仕方がないのに、誰がこれ以上くっ付いていたいだなんて願うと思う。
ドアと見つめ合ったまま余りのアホらしさに段々と恐怖は薄らぎ、代わりにやってきたのは呆れと脱力感。
身体の前に回る腕を半眼になって見下ろし、背中に張り付くこの大人へと静かに呼びかけた。
「先生」
「ああ」
私の肝は据わっていない。
けれど。
どこぞの友人がしばしば言い立ててくる馬鹿野郎の称号もあながち間違ってはいないのだろう。
だってもうなんか、これは言わずにはいられない。
ここで言わなかったらレティシア家末代までの恥だ。
それなら私は死ぬ方を選ぶ。