第84章 黎明
部屋で2人きりで話した。
夢の内容も少しずつ混ぜて話した。
家族の話。
兄2人との関係。
本当は死ぬつもりで家を出たこと。
今私がなんのやる気もないこと。
これから何をしたいのかわからないこと。
それでも生きていたいこと。
広がり続ける痣のこと。
体の不調。
力がないことによる不安感。
そして、赤ちゃんを受け入れられないこと。
実弥は黙って聞いていた。
「………」
沈黙が続いた。
赤ちゃんはその間も起きているのか寝ているのかわからなくて、たまにもそもそと動いているだけだった。
「まず」
話し始めたのは実弥からだった。
「生きたいって言ってくれたのも、子供産んでくれたのも…俺はお前の全部に感謝してる。」
「……」
「…俺も…お前の言ってること、全部肯定してやりたい。」
私はベッドの上で膝を抱えた。
…実弥の顔を見るのが難しくて、ただぼうっと真正面の虚空を見ていた。
「どうしたいかはわからない…んだよな。」
私は頷いた。
「……俺、わかってなかった。お前のこと。」
「……」
「逃げ場なくしちまったの、俺だよな。」
実弥はそう言った。
「……全部、俺の…」
そこで私は口を開いた。
「…よく…」
「!」
「今でも、よくわからない、けど」
私は顔を実弥に向けた。
「……最後に、思い浮かんだのが君のことだった。」
「…俺?」
「最後、君の顔が見えた。」
巌勝と一緒に見た空。
その空の前に、まず記憶の中の実弥を見たんだ。
「君が……いつでも、私にまっすぐ向かってくるから、逃げるしかなかった。」
「………」
いつも向き合ってくれた。
でも。
「わたし、君にこたえたかった」
「…」
「逃げないで、話したかったけど、話したくないことがあった。ぅ、そ、それで……あ、わ、わたし、」
「もういい」
「、君が」
「もういいから」
実弥は私をそっと抱きしめた。
「好きだから、は、話した、の」
「うん…」
「嫌い、になって、ほしくなくて」
「…わかってる」
「…、ごめ「謝るな」」
声が震えた。泣いているわけでもないのに体が震えて。
すっかり弱りきってしまった私を、実弥は逃さないように抱きしめていた。