第84章 黎明
苦しかったはずなのに、最後に見えたのは実弥の顔。
「……死んでも助けてなんて、言いたくないし、なんでも話すなんて、できないし、ポンコツだし、うるさいし、可愛くないし、わたし、いいところ一つもない。」
頑固なのは、変わらないし。
「いいんだよ。お前はそういうところがいいんだ。」
「……」
「…ごめん、俺が、忘れてたんだ。お前がどっか行っちまう気がして、縛り付けようとしてた俺が馬鹿だった。怖かったんだ。」
人と付き合うことが、怖いだなんて。
「……こんなことになって気づくなんて、俺は馬鹿だ。」
私は、ただ。
「……怖かった…」
「あぁ」
「ずっと、怖かった。」
怯えていただけ。
怖いから、逃げた。
「あ、あたし、ずっと、怖くないふり、してた」
いつからだろう。
いつから、対等に誰かと話すことができなくなったんだろう。
相手の感情を読んで、ただ笑って、そんな、そんなこと。
望んだ姿でもなんでもないのに。
背負っていた気でいた。
みんなの人生、背負っていた。
だって私は最強だから。
私が負けたらみんな負けちゃうから。
助けられるなんてお門違い。
助ける存在でいなくちゃ。
そんなことをずっと思っていた。
「……俺はどんなお前も好きだよ」
「…」
「もう縛らねェ。誓う。だから、やりたいこと探してこい。」
実弥はそっと私から体を離した。
「俺はお前が戻ってくるのを待ってる。」
「……実弥」
「…ごめんなァ」
その時、実弥も泣いた。
「こんなになるまでずっと全部抱えこませちまって。俺が気づいてやれなくて。こうなったお前に何もできなくて、ごめんな。」
実弥の涙は綺麗だった。
「ごめん」
今度は私が謝った。
「こんなに、なっちゃって、ごめん」
実弥は首を横に振った。
「なんでも、なんでもいいんだ。」
彼の涙がぽたりと落ちた。
「生きてさえいてくれたら…ッ!!」
私はまだぼうっとしてその涙を見ていた。
拭ってあげたら、実弥は嬉しそうに笑って私の手の上に自分の手を置いた。