第84章 黎明
「だから死んだんだ。」
優鈴は淡々と言った。
「歩けない、目が見えない、力も無くなってしまった。実家に帰ろうにも、こんな体では帰れない。それに鬼殺隊にも迷惑かけ続けたくなかったしさぁ。だから死んだんだよね。
お前も今なら僕の気持ちわかるでしょ。」
私は黙って頷く。
「…でも、お前が死にかけたって聞いて、みっともなく泣いたよ。」
「……」
「自分がしたことは後悔なんてしてない。だけど、きっと周りの連中は僕の死をこんな感情で見ていたのかって思うと涙が出た。
お前が死にたいって気持ち、痛いほどわかる。でも死んでほしくないってそれ以上に思うんだ。」
また風が吹いた。今度は冷たくて、ひんやりとした風。
「何もできなくなって、何もすることなくて、嫌なのわかるよ。わかるけど、生きててよ。」
ポタリ、と何か落ちた。
雨が降ったのかと思ったが、濡れているのは優鈴の瞳だけだった。
「……」
私は立ち上がった。
服のボタンに手を添える。
「…え」
プチプチ、とボタンを外すと優鈴が悲鳴をあげた。
「え!?えっ、えええ!?!?!?おまっなにっ!!ちょっと!!自暴自棄になるなよ!!おいっ!!」
「……」
「ねぇやめて本当にやめて!!この場合の有罪は男の俺になるから!!絶対そうな……」
優鈴が言葉を止めた。上の服を脱いだ私の体を見て固まっている。
「……」
もともと腕と足にあった痣は、広がっていた。
右半身は完全に痣に染まっていたし、もう首元まで来ている。多分、顔にもそのうち発現すると思う。
「………それ…」
「……………」
「……、お前…」
優鈴は痣を凝視していた。
「いつから?」
「…」
「…すごく苦しいだろ、それ。痣がそんなに広がったんじゃ……。」
私は服を羽織った。
…裸にいるにはまだ寒い気候だ。
「もう二回も死にかけたんだ。当たり前だよ。」
「……」
「多分、三回目はない。力も失ってしまった。」
「…奇跡はあと一回ってこと?」
「あくまでも、“多分”。」
私は服を元に戻した。