第84章 黎明
優鈴は軽く私の頭を叩いた。
「お前、死ぬ気だったろ。」
「うん。」
「だろうね。」
さあっとぬるい風が吹いた。
私がいろんなことに必死なだけで、もう春真っ只中になっていたようだ。外に出てぼんやりして、何も考えないようになって初めて季節の移ろいに気づけるんだと改めて思った。
「痣出たんだって?」
「もともと出てた。」
「そうか。それは死ぬわ。だけどポジティブに考えてたんじゃないの。」
「ポジティブで超人にはなれないよ。」
「お前は超人だよ。」
「どこが。」
私はつぶやいた。
「ずっと。普通にもなれない、くっだらない人間だったじゃん。」
「みんな普通じゃないよ。お前1人が特別なわけないだろ。この世界はそこら辺だけしっかりしてるんだ。」
優鈴はそう言った。
確かに、妙に説得力があった。
「いいじゃん、普通じゃなくてくだらなくて。自分のこと人間ってわかってるならそれでいい。」
そこで私は初めて顔を落とした。
かつての相棒は、なんだか歳をとって見えた。
「何もしなくていいんだよ。」
優鈴は真っ直ぐ前を向いていた。
「生きていれば、いいよ。」
その言葉は、ストンと胸に落ちてきた。
「お前が死んだら寂しいじゃん」
____生きていればいい
でも、生きていくには何かしないといけない。
「………死にたくないって、思った、けど…」
「…けど?」
「何もしたいことがない…」
目が覚めてから初めて本音が言えた。
「……自分のことなんてずっと、どうでもよかったから、自分のやりたいこととかわからない…。」
「………」
「それに、ずっと私も支えてくれていた力もなくなってしまった。」
私は空から目を落とした。
「今は世界が本当に静かに感じるの…。」
「……」
「知らなかった。世界がこんなに静かで、寂しいものだったなんて知らなかった。」
ぐっと胸のあたりをおさえる。
…今では自分の心臓の音がうるさく思えるほどだ。
「……俺も同じだったよ」
その時、優鈴がそう言った。