第84章 黎明
しばらくじーーーっと見てたら泣き止んでふんふん言うんだけど、よく泣くんだよなぁ…。
試しにツン、と頬をつついてみた。ほっぺはふにゃふにゃしていた。
「ん、ん」
「……」
「ふえぇ」
赤ちゃんはエグエグ泣きだしたので慌てて手を離した。
「…小さいのによく動くな」
「赤ちゃんだからっしょ」
声が聞こえて顔を上げると、優鈴がいた。
「いつからいたの」
「泣き声がしたから入って来たんだけど。泣き止まないなら看護師さん呼んでこようか?旦那もさっき戻ってきてたし。」
「ああ…うん。」
…全然気づかなかった。まぁ、今まであの力に頼っていたから当たり前か。
「抱っこしないの?」
「落としそうだから」
「そう。」
優鈴は赤ちゃんを覗き込んだ。じいっと睨んだかと思うと、赤ちゃんはぴたりと泣き止んだ。
「何したの?」
「大丈夫って念送っただけ。じゃ、僕忙しいから。」
優鈴は慌ただしそうに部屋から出ていった。
いや、“だけ”とか言ってるけど念送るって何???あいついったい何???
「念だって」
「けふッ」
話しかけると赤ちゃんは小さくくしゃみをした。
「……フフッ」
その様子が面白くて吹き出してしまった。
「楽しそうだな。」
「実弥。」
そんなことをしていたら彼が帰ってきた。
「泣かなかったか?」
「泣いてたけど、優鈴が念送っただけで泣き止んだの。」
「……はぁ?」
実弥は首を傾げた。うん。普通の反応。
「優鈴の方法は俺らにはむかねぇな。」
そう言って彼は嬉しそうに赤ちゃんを覗き込んだ。
「あんなの優鈴にしかできないって…」
私はため息交じりに答えた。
「で、何を笑ってたんだ?」
「…くしゃみしたから面白かっただけ」
「へぇ、人生初くしゃみだな。」
「くふッ」
とか言ってたらまたくしゃみした。