第12章 雨晴らし
どれだけ時間が経っただろうか。
けれど、そろそろ部屋の電気をつけないと暗くて不便だ。
でも私は動く気にはならなかった。
足に重りでもついているみたいだ。
おはぎをおろしてやると、解放されたのが嬉しいのかトコトコと歩き出した。
そして、最後は玄関の前で止まった。
じっとそこから動かない。
こう言う時は、何が起こるか決まっている。
私はようやく立ち上がった。
ガチャガチャと玄関の前で音が聞こえる。
私は家の中なのに駆け出した。
「ただい」
ドアが開いた瞬間、その体に抱きついた。
驚いているのか固まっていたが、やがて背中に手が回ってきた。
「帰ってくるの、遅い」
「……悪かった」
「思ってないでしょ」
むすっとしてその顔を見上げると、困ったように眉を下げていた。
「思ってるよ」
実弥の声は弱々しかった。
その日のご飯は実弥が作ってくれた。
私はやる気が出ないのでただぼんやりとしていた。
「なんかフルマラソン走った後にお酒飲んで100メートル泳いだみたい。」
「馬鹿言ってないで食えよ。」
「無理。お腹空かない。」
「フルマラソン走った気分なのにか?」
痛いところをつかれて私は箸を手にした。
「……うへえ、美味しい…もう毎日作ってほしい…」
「わかった。」
実弥はにこりと笑った。
「…だから、長生きしろよ。」
いつも通りの声のトーンだった。
カナエから話を聞いたのかもしれない。もしかしたら阿国が話したのかもしれない。
知っているにしても知らないにしても、実弥は。
「…うん。」
私を尊重してくれる。
もうすぐ死ぬからと腫れ物のように扱われたいわけではない。私が望むのは日常だ。
それを理解してくれてる。それがわかる。
だから、こう言うところが大好き。