第84章 黎明
……5時間、か。
夢での体感時間は5時間以上だったんだけどな。まあ夢の中に時計があるわけじゃないし当然か。
「じゃあ赤ちゃん連れてきてもらうから。」
唖然としていた私を先生のその一言が現実に呼び戻した。
「お父さんは一回見たよね。」
「はい。」
「検査してたのよ。あなたが大変だったからね。でも赤ちゃん何も問題なかったわ。」
実弥はワクワクした顔をしていた。…これは感情が読めなくてもわかるな。
それでしばらくしたら看護師さんが巌勝の寝ていたベッドをゴロゴロと転がして出ていった。それと入れ違うようにまた別の看護師さんが連れてきたんだけど。
赤ちゃん用のベッドでワタワタ動いている姿は見えたけど顔はまだ見えなかった。
実弥が目を丸くして覗き込んでいた。
「お父さんがまず抱っこして、その後にお母さんでお願いします。」
看護師さんに言われて実弥は喜んで赤ちゃんを抱き上げた。弟妹がいない実弥は慣れたものだ。
……………こんな時でも静かだな。
力があったら、もっといろんな情報が頭に入ってくるはずなのに。
「、ほら」
実弥はそう言って私に赤ちゃんを差し出した。
顔が見えた。
まだ目が開いていない。
なんか小さくふんふん言ってる。
寝てるのか起きてるのかわからないけど手足がもそもそ動いていて___
実弥がさらに近づけてきた。
が。
「やめてッ!!!!!」
私はそう叫んでいた。
実弥が驚いている。
………気づけば拒絶していた。
「…お…落としそうで嫌………まだ動けない…から…」
「あ、あぁ、そうか。ごめん。じゃあそばに寝かせて…」
「……。」
「俺が手を離さないから大丈夫だよ。」
実弥はそう言った。
私の枕のそばにちょこんと赤ちゃんを置く。言った通り実弥は手を離さずに赤ちゃんを支える。
「……髪の毛は俺のだな」
実弥はまだちょっとしか生えていない髪を撫でた。
「……小さい」
「生まれたばかりだからな」
「………」
私の顔の真横に連れてこられた赤ん坊は途端に顔を歪ませた。ベッドにいたところをひょいひょいと動かされたので嫌になったのか火がついたように泣き出した。