第84章 黎明
ギョッとして扉の方を見ると、そこにいたのは実弥だった。
「目が覚めたって聞いて…!」
「バタバタすんなパンチ」
現れたかと思いきや、後からやってきた優鈴に殴られていた。
「いてェ……」
「大人しくしてろ。ドアホ。」
優鈴はそう言い残して部屋から出ていった。
…ああ、2人が言ってたアイツって実弥のことか。
「…もしかして雨の被害で帰れなかったの?」
「もしかしなくてもそうだよ…」
殴られたところを抑えながら実弥はよろよろと立ち上がった。
「それより……大丈夫か?体は?」
「……」
私はプイッとそっぽを向いた。
「…」
「……」
…話すことがないっていうか、合わせる顔がないっていうか。
「力、なくなっちゃった」
「…力?」
「何も感じないの。…今この病院にたくさん人がいるって聞いたのに、誰の気配もしない。実弥の…君の感情さえ感じられない。」
目が覚めた時からの違和感。
それは、いつもなら当たり前のように感じていたものが消えたことだ。
わからないけど、おそらく平安時代で陽明くんと触れたことが原因ではないだろうか。
……それに、この力は鬼と戦うためにあったようなものだし、もういらないものだけど。
「……空っぽになったみたい」
ないと思うとむなしい。
かといえ、取り戻そうとする気力もない。
中学生のときに一度だけ力をなくしたけれど、あのときとはまた違う。
世界ってこんなに静かなんだ…。
何の気配もない。何の感情もない。
それと同時に、私の感情もいまいち見えない。
何もわからない。
ただただ不安なだけ。怖いだけ。
生きたいって思っても、やりたいことがない。
私の仕事は全部終わったんだ。
「……まだやることはあんだろ。」
「…………もうないよ…」
窓の外に目を向けた。
雨はもう止んでいて晴れていたけれど、なんだか雲って見えた。
「………そんな顔すんな。」
「……」
「俺はお前が無事で嬉しい。先生呼んでくる。」
実弥はそっと私の頬を撫でた。