第83章 月霞
私が生きている間、完成しなかった技。
日の呼吸の偽物みたいな技で、どうしても嫌いだった。
燃えるような、暑さ。
___________赫刀
何度か実践で成功したことはあれど、感覚がつかめなかったため誰かに教えることもできなかった。
「霞の呼吸、最終の型」
これ以上はない。
だから、最終の型とした。
「炎陽の霞!!!」
例えるなら、燃える霞。
現れるときは優しく。
しかし、その優しさを目にしたときにはもう遅い。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
喉が切れるほどの大声が出た。
右の肩から、左の太ももまで深く切りつける。
「…なぜ」
巌勝は血しぶきを上げた。
「なぜ、これほどまでの才能を…!!!」
倒れた。
私はその横に膝をついた。
…全部出し切った。
「私の、勝ちで、よろしいですね」
刀がカラン、と落ちる。
もう握力がない。
「………なぜ」
「…」
「なぜ、その至高の領域にたどりついたお前が人間をやめたのだ。」
その質問に、迷うことなく答えた。
「約束でした。亡くなった、仲間との。」
「憎くはないのか。お前を虐げた鬼殺隊が。お前は師に教えられ、治療を受け、皆から愛されればもっと人間として長く生きたはずだ。」
巌勝の言葉は、もしもであふれていた。そんなのいくらでも考えた。
もしも、そうだったらって。
でもそんなもしも話考えてもどうしようもない。
「私は自分の場所で自分のやることをやっただけです。周りのせいにするつもりは、ありません。」
「……」
「けれど悲しかった。」
言葉は、自然と流れる。
「消えたかったです。悲しみの中にいたかったです。苦しい感情に浸っていたかったです。
でも鬼殺隊のみんなはそんな感情を押し殺して前を向いていました。そんな人たちを、恐れることはあれど恨むことなどできません。」
私も前を向いた。
辛いことなんてたくさんあった。
いやなことだらけだった。
それでも、あの日々を捨てることなんてできない。
あれ以外の思い出はいらない。
あの選択以外は、あり得ない。
鬼殺隊にいたことは、それほどまでに私のすべてだったのだ。