第82章 千年の子守歌
自分の子供を産んでくれた、あの女性。
私だってたくさん許されてきた。たくさんだめなことをした。でもみんな許してくれた。
だから今まで生きてきた。
「…ぁ」
命の、気配が。
「愛して、いるんだ」
消えていく。
「あいして………」
最後まで、あの木の札に手を伸ばしていた。
私は彼の体をぎゅっと抱きしめた。
「……」
そして刀を握りしめる。
「私は__________」
屋敷の屋根の上に立つと、広い土地を見下ろせた。そこに異物のように無惨がいた。
「…やっと出てきたか」
屋敷はもうめちゃくちゃだった。
「この家の当主はお亡くなりになりました」
「そうか、ようやく死んだか」
無惨はうれしそうに笑った。
私も、父が死んだときはこんな顔をしたのだろうか。殺したのは私ではないけれど。
「お前はどうも鍛えられた人間のようだ。ここで食って吸収するのが良いだろう。」
「……。」
私はため息をついた。
「あと何百年か待てば、私たちは一体化しますよ。」
そして飛び出した。
地面を蹴って、懐に潜り込む。
「無惨」
霞の呼吸
私は刀を振った。
無惨の頸が、飛ぶ。
「な…!?」
青白い顔をしていた。
「…平安時代のあなたには、負けないみたいね。」
飛んだ頸はごろん、と地面に転がった。
「ねぇ無惨。あなた本当にひどいことをしたわ。でも鬼殺隊に救われる人もたくさんいるの。本当なら救われない人たちが、ね。
……現実じゃむかつくから言わないけど、言うわ。ありがとう。」
「……一体何の話だ。」
「大正の夜明けにわかるわよ。せいぜい、生きて生きて、いつか許されるといいわ。」
私はそう言ってその場を後にした。
……まぁ、どうせ夢の中の話だけど。