第82章 千年の子守歌
過去の行いはきっと間違っていた。
だめで、幸せとかわからなくて、ただ生きていることに必死だった。
「ご、めん」
声が、消えていく。
「……ごめんね」
力が、抜けていく。
「生んで、ごめんね…」
その声は部屋に響いた。
「生んでしまってごめんね」
誰に言ったのだろう。
誰に言ったのかはわからない。
私は、自分の子供の顔を見ていない。
こんな母親でごめんねと思う。愛してあげたいけど、私はよくわからなくて。
母親ができることなんて産むことくらい。お腹痛めて、無事にこの世に出してあげるだけ。
そのことをいつか申し訳なく思うのだろうか。
生まれない方が良かったと、思うのだろうか。
なぜ産んだのかと、いつかそう言われるのだろうか。
「そうですよね」
私は、いつの間にか泣いていた。
「生んでしまって、ごめんなさいが正解ですよね。だって頼まれたわけでもないんだもの。それで、産んで、お腹痛めたのよって、苦労したんだぞって、そんなこと言われてしまうのですよね。
生まれてきてくれてありがとうって、生きててくれてありがとうって、言えないですよね。おかしいですよね。私が一番言って欲しかった言葉なのに、言えないのです。」
ポタポタと涙が落ちる。
「それでも幸せになって欲しいだなんてわがままなことですか」
「……」
「消えたいって、死にたいって、もう立ち上がりたくないって、思い続けることに意味があるのですか」
私は立ち上がった。
彼は倒れていた。もう動くことはないかもしれない。
「……私は」
それでも、彼は声を出した。
「私こそが生まれてきたくなかったのだ。私がいることが許せなかった。未来永劫、それは変わらぬ!!」
自分で自分が許せない。
そんな悲痛な叫びに、耳を塞ぎたくなる。
「それでも________」
私は涙した。
「“あの子”だけが私を許したのだ。」
誰か、なんて聞かなくてもわかる。