第82章 千年の子守歌
気配をたどり、逃げた彼女たちを追いかけた。
「お待ちください!戻ってはいけません!!」
「いいや!あの者を放ってはおけぬ!!」
言い合う声が聞こえたのでそこに行くと、何やら口論をしていた。
「あの者って私のこと?」
「あっ!無事であったか!!」
彼女はタタタッとかけてきた。…お産直後なのに元気だな。
「もう大丈夫。戻っても問題ないですよ。」
「本当か!?鬼を倒したのか?!」
「…倒してはいません。ですが、神社はもう安全です。」
「そうか…だが、あの人は死んでしまっただろうな。」
彼女の顔に影が落ちた。
とたんに、赤子が火のついたように泣き出した。女の人は慌てて子供に駆け寄る。
「なんだ、どうした。」
「おぎゃあ、おぎゃあ」
赤ちゃんは泣いていた。
私はその光景を眺めていた。
「……陽明くん」
大きな力を持つ彼が、小さな幸せを求めていた。
偉大な神の子も、確かに人の子であった。
いずれみんなそのことに気づくのだろう。
「君の愛したものは、消えないよ。」
でもごめんね。
私で、君の血は耐えてしまったよね。
「お主、今何か________」
彼女が振り返る。
おそらくその目に私は写っていないだろう。
彼女は鏡の向こうにいた。
気づけば私は元いた屋敷に戻ってきていた。
鏡に布をかぶせ、元の状態に戻した。
私は屋敷の畳に寝転んだ。