第82章 千年の子守歌
何かキラキラ光る水晶のような球を囲むように、木の札が飾られていた。
札は数え切れないほどそこにあり、すべてに名前が刻まれていた。
「まさか…全部、無惨に殺された人たち…!?」
…もしかして、この人……
「我らに助けなどいらぬ!これから殺される人々を助けてくれ!!」
彼は一歩、また一歩と木の札が飾られる大きな神棚へと歩いて行った。
「もうやめて!!」
私はたまらずに後ろから彼を抱きしめた。
「陽明くん、もうやめて!」
名前を呼ぶと彼は動きを止めた。
「助けて…くれ……殺される人たちを…私は、もう救われる資格もない……」
「陽明くん、違う、違うでしょう」
「神様、お願いだ」
神の子と呼ばれた、絶対的な力を持つ彼が、神に祈っていた。
「違うでしょう、陽明くん」
私はそう訴えた。その声が届いたかどうかわからないが、彼は立ち止まった。
「……」
私の手を握る彼の手から力が抜けていく。
「…て」
小さな、弱い声で、でもはっきり聞こえた。
「…誰か、私を救ってくれ」
悲しい。
悲しい、悲しい気配がした。
無惨を友と言って、鬼になるとわかっていて、たくさんの人が死ぬとわかっていて、自分も殺されるとわかっていて。
救われないと、知っていて。
「大丈夫。」
私は、自分の祖である彼を確かに抱きしめた。
「何年、何十年、何百年かかろうが私たちは諦めません。鬼殺隊は止まりません。あなたも必ず救われます。」
陽明くんから力が抜けていき、ずるずると地面に座り込んだ。
それでも私の手をずっと握っている。
「鎮魂もやり遂げます。今は止まってしまっているけれど、絶対に再開させます。あなたの心を無駄にはしない。あなたの優しさは何も間違っていない。
私たち一族も救われようとしています。誰かを助けようと、命を捧げ続けました。みんな幸せになろうと、前を向いています。」
私は彼の手をぎゅっと握りしめた。
「必ず私たち一族は幸せになります。」
彼は一度だけ、私を振り返った。
少し自信がないけれどしっかりと答えた。