第82章 千年の子守歌
母屋から離れ…みたいなところについたところで、何となくその気配が強くなった。
…それにしてもでかすぎる、この屋敷。走り回るだけでけっこう疲れたぞ。
……ていうか、ここって誰かの家とかじゃない?
雰囲気はそう…
神社。
私は庭の意思を踏み、建物の裏から表へとまわった。
そこからは想像に難くない。
血なまぐさい匂いがして、綺麗な白の着物を着た男の人が血だらけで倒れていた。
気配がはっきりしなかったのはこのせいか。
少し無惨の気配も残っていることから、彼は無惨にやられたのだとわかる。
「可哀想に」
私は部屋の中に土足であがり、彼のそばに腰を下ろした。
「ぁ…あ……」
「………」
その顔は大人びていたけれど……どこかで見たような顔だった。……あれ?だれ、だっけ。
「……動かないで。動くといたいわ。最期は、静かに…。」
「………ぅ」
彼は今にも息絶えそうだった。
「………逃げ…なかったの…?」
ふと、洗い息の隙間にそう聞こえた。
「…こど…も……わた…し……たち…の」
……。
何となく察しがついた。
恐らくこの男の人は…
「あぁ、無事だよ。」
なるべくあの人の真似をした。
顔が似てるから間違えたのだろう。
「本当…?どこか、身切れたところは…」
「ないよ。」
「……きみは、大丈夫…かい」
「うん。」
男が伸ばしてきた手をそっと握る。
「し…死なせないで、く!」
「うん」
「生き延びろ。」
その握力は、今にも死ぬ人間とは思えないほど強く。強く、強く。私の手を握りしめた。
「大正の夜明けまで!!」
男の目がカッと開く。
「絶対に血を絶やすな!!我らの意思を継ぐ者を産み続けろ!!何としてでもあの悪鬼は我らが!!」
「っ!」
「必ず殺してやる!!アイツがこれから殺し続ける人間の恨みを、この神社に眠るすべての魂で呪ってやる!!殺す、殺す!!!」
男は叫んだ。そして、なんと私の手を強く握ったまま立ち上がった。
「殺してやる」
男は何かに手を伸ばす。
私はそれを見て絶句した。