第82章 千年の子守歌
彼女の顔色がだんだん変わっていく。
それは恐怖におびえるものになって、彼女はどこかに逃げようとしていた。
「待って」
足を踏み出したとき、何かにつまづきそうになった。足下を見るとそこには刀があった。
私の刀だ。
さっきまでなかったのに、とかそんなことを言っている場合ではなかった。
私はまよわず鏡に手を伸ばした。私の手は鏡に触れることもなく、そのまま吸い込まれるように鏡の中に入っていった。
なんだかじめっとしていて、いやな空気だった。
私は地面の感触を確かに踏みしめ、刀に手をかけた。
「霞の呼吸…!」
鏡越しに見ていた女の人がいる。彼女は私を見て驚いているようだった。
「そなたは誰だ!?どこから来た!?」
「あー、あの、私もよくわかんなくて…!?」
その人と顔を合わせたとき、私は驚いて言葉が出てこなかった。
「え!?」
「な…!?そなた、私と瓜二つではないか!?」
確かにその人と私の顔はそっくりだった。髪型とか体形に差はあるが、顔だけはそっくりだった。
驚いている中、その空気を切り裂くようにぎゃーーーっという叫び声が聞こえた。
「こ、これ、泣き止ませぬか!!」
「申し訳ございません!!」
よく見ると彼女のそばにはもう一人女性がいた。彼女とは異なり、着物もみずぼらしく召使いか何かだとわかる。
「もしかして赤ちゃん?」
「私の子だ!触れたら殺してやる!!」
近づこうとすると、彼女はかばうように両手を広げた。
召使いみたいな人が抱っこしているのはまだ小さな小さな赤ちゃんで、新生児みたいだった。
そこで私は気配をたどった。
「…あなた、もしかしてお産直後なんですか!?」
「だ、だから何だというのだ!!」
よく見ると顔色が悪い。それに歩いている様子も変だし…。
「休んでないとだめですよ!」
「休む暇などない!鬼が来ているのだ…!!」
「お、鬼?やだなぁ。どんな世界設定か知らないけどそんなの…。」
冗談半分に捉えていると、後ろか妙な気配がした。