第82章 千年の子守歌
歩いても歩いても草、草、草。そして空。
そういえば小さいとき、なんで空が青いのかってすごく気になったけど。いまとなっては何が気になったのかさっぱりだ。
だーっ。
もうなんだここ。
地獄か天国かもわからない。あれ、三途の川は?まだ見えない感じですか?それとも草原地獄みたいな感じ?
結構歩いたはずなのに疲れないなぁーーー。
さすが、死人には疲労なんてぜいたくなもんはないみたいだ。
「このまま何もないのかなー」
「そんなわけないだろ」
声がして、私ははっとして振り返った。
「誰_____________」
気づけばそこにいた。
どこか見覚えのあるような日本家屋。そして、目の前に広がる空間。
「…よりによってここかよ」
ここは、前世の私が暮らしていた屋敷だ。無一郎くんとも暮らしていた場所。
ひとまず家の中を歩き回った。
が、何もない。
「地獄に来てまでこの家に住むわけ?」
しかし、正面の門から外に出ようと思っても出られなかった。
見えない壁が確かにあった。
蹴ったりしてみたけどどうにもならない。
「住むならさー…もっと居心地の良い場所がいいなぁ」
願望を口にするも変わらない。
そこで初めて自分の体をみおろすと、隊服を着ていた。着替えた覚えもないが、どうやらここはそういう設定らしい。
諦めをつけて今に戻る。すると、そこに布をかぶせられた鏡台があることに気づいた。
「…安城殿がくれたんだっけ。」
ああ、こんなのあったな。使わなかったけど。
ひとまず布をとってみた。
が、そこに私は写らなかった。
鏡の向こうでは誰かがそこにいた。
女の人がいた。藤の花の下で立っていた。こちらに背を向けていて誰だかわからなかったけど。
「誰」
声をかけたけど私の声は聞こえていないようだ。
顔がはっきりと見えなかったけど、彼女は黒髪がこれでもかってくらい長くて、つやつやしていた。
しばらく見とれていると、鏡の向こうに変化があった。