第81章 見えないもの
静かになったところで私はふと我に帰った。
(お腹…痛……っ!!!)
するとずっと経緯を見守っていた看護師さんが動き出した。
「先生呼びますね!」
まさか停電するとは思わなかった。まぁ、実弥が来るような気はしていたし。アマモリくんがここまで連れてくるとか、そんな無謀な行動取るとは夢にも思わなかったんだけど…さ。
ちょっと色々予想外だけど……。
「……ここで終わりか」
私は起き上がった。
「なんでだよ!!!」
しかし数秒後、私はそう叫んでいた。
なんと看護師さんは実弥を引き連れて戻ってきたのだ。
「だって旦那さんがいるんだもの…。分娩室まで歩いていってもらうから、手伝ってもらおうと思って。停電で人手が足りなくてぇ〜。」
「自分で!!歩きます!!」
「…まあ〜元気な妊婦だこと。そんなに叫んでしんどくないの?」
「ぜんぜん行けます!こっち!?あっち!?」
「あっちよぉ」
「ふん!!」
私は自分で歩き出した。実弥が支えようとしてきたけど、私はその手を振り払って壁伝いに歩いた。
「お前!まじでそろそろ帰れって!!私の弱ってる姿見てそんなに楽しいか!!」
「んなわけないだろ、そういうことを言いにきたんじゃねぇ。」
「うるさいな!!君はいつでもそうだ!!こんな時くらい放っておいてよ!!」
「本当に元気な妊婦だこと」
「せ、先生…止めなくていいんですか?」
「いいんじゃないの」
私はもう周りが見えてなくて、ただひたすら叫んでいた。
「放っておけるか!!こんな時くらい誰かを頼れよ!!」
「頼らないといけない法律があるの!?ないでしょ!!」
「だからそういう話じゃねぇって!!」
実弥の声はこういう時によく響く。
ああ、そうだな。
よくわかってるよ。