第80章 大バカ野郎どもへ
産婦人科の前に来ると、当然真っ暗だった。そりゃそうや。停電してんねんもん。
「………」
俺はどうするのかと不死川を見守った。
「すみません」
が、不死川は普通に自動扉を筋肉でこじ開けた。
「ちょっ不死川!お前それは…!!」
「きゃあっ!何!?」
「いやーーー強盗!強盗だわ!!!」
中にいた看護師さんたちが悲鳴をあげる。…無理もない。
汚いスーツ。前が変に開いたシャツ。あと極め付けに傷だらけの顔。
「不死川くん!それはあかんてここ飯屋とちゃうねんで!!」
「あ?だって入るしかねぇだろ」
「今その心の直球さ捨ててもらってええかな!?すんません!こいつなんか間違えたみたいで!!」
俺はぐいぐいと引っ張って外に連れ出そうとしたが、看護師さんがぴたりと動きを止めた。
「…ねえ、シナズガワって言った……?」
「私もそう聞こえたけど……」
「ま、まさかね…あんな大人しい人なのに……」
チラリとそんな声が聞こえた。
不死川がそれを聞き逃すはずもなく。
「俺は不死川実弥といいます。こちらに…俺の妻が来てないでしょうか。という名前です。」
いきなり行儀良くなった不死川に、俺は少し引いた。…こいつ、敬語使えたんか。
「えー、俺はキリキ…この人の奥さんに、ここらへんのお家すすめた不動産屋の天野いいます。連絡取れへなくなったんで一緒に来ましたー…。」
とにかく俺も名乗った。名刺をあげようかと思ったけど雨と泥でべちゃべちゃになっていたのでやめた。
「俺たち、あそこの獣道から来たんです。一本道が土砂崩れで塞がってたんで…。」
「まあ、それでそんなに汚れて…」
看護師さんはようやく納得したようだった。
「ねえどうする?どうしたらいいと思う?」
「知らないわよ。聞くしかないんじゃない?」
「大丈夫かしら、だってあの人……」
……それにしても、この人らのこそこそ話全部つつ抜けやな。
「あのぅ。着替え用意しますんであのへやにどうぞ。ひとまず、その…ナントカさんって人、カルテでさがしてみますぅ。」
看護師さんのうち1人にそう言われ、俺たちは思わず顔を見合わせた。