第80章 大バカ野郎どもへ
女の子の死体があったらどないしよう。
そんなことを思っていたら、黒い塊が見えてひやっとした。近づいてみたらそこにあったのは打ち上げられた海藻の塊だった。
「…キリキリちゃんは死体になってもきっと綺麗やろうな。」
あの子がこんなに汚いわけがない、となんだか納得してしまった。
昔、はるか昔のこと。
鬼との最終決戦が終わり、鬼がいなくなった世界でキリキリちゃんと再会した。
あの子は魂が抜けたみたいな、本当の無表情だった。
『何かすることも行くところもないの。でも死ぬ方法もわからない。』
そう言われて、唖然とした。
あんなに鬼狩りに精を出していたのに、やることないとかあるぅ??と言うのが俺の感想やった。
だって、なんかしたいことあるから頑張ってるんちゃうんかって思うやん。せやけど、キリキリちゃんはそう言うねん。
ほんで放っておいたら変なことしそうやと思ったし、何よりあんなに努力し取った子がご褒美らしいことも何もなしなんて辛いと思って、一緒に旅でもしようって誘ったんや。
一回、海に来たこともあった。
俺は海に飛び込んで、そしたらキリキリちゃんも飛び込んでいった。
いざ死のうとしたら、あの子は死にたくないという気持ちが強かったみたいで水に沈むことはなかった。
「俺はほんまに死んでもよかってんけどな…」
キリキリちゃんは、強くて、弱くて、可愛くて、優しくて、怖くて……。
「それは困る」
その時、声がした。少し低い女の声。
振り返るとそこには黒いローブを被った誰かがいた。お化けかと思った。足が凍りついたが、その人にはちゃんと体があった。
…透けてないし、お化けやない、か?
「君が死んだら…とても困る」
「あ、あんた誰や?いつからそこにいたん??」
「………」
彼女はすっとどこかを指さした。
「私はいつもあそこにいる」
「…え?」
指差す方は…確か、あの小さな神社があるところだ。
「全部終わったら、またおいで」
「え、あ、ちょっと」
すると彼女はサッと走り去ってしまった。
……不審者?????
通報した方がいいかと思ったが、なんだかそんな気になれなくて俺はすぐに家に帰った。