第80章 大バカ野郎どもへ
ひとまず、安否確認は済んだ。
残された俺たちはリビング…っぽい1番広い部屋に座り込み、差し入れのおかずを勝手に食べた。
それくらい切羽詰まっていてお腹が空いていた。
「明日、朝イチで病院やな。海がいいなら気が済むまで付き合うけど。」
「……病院の方がいい。海は…俺がキツイ。」
…何が、とは聞かんかった。
「ほな、病院に電話するのが確実かもしれん。いきなり行ったら迷惑やし。さっき調べたら普通に出てきたんよ。」
「……それならそうするか。」
元気のない不死川の膝では猫がすうすう寝ていた。
もうご飯はないけど、食べかけの煮干しが部屋に残っていて腐っていないようなのでそれをやると喜んで食べた。
しかし、本当に何もないな。
テレビもない、娯楽もない、あるのは少しの仕事道具と積まれた大量のスケッチブック。
「はぁ、全く困ったちゃんやで。」
俺は何気に1番上のスケッチブックを手に取ってパラパラめくった。
最初は猫とか、景色とか、そう言うのが綺麗に書いてあった。
でも真ん中あたりを過ぎた頃、線が歪になっていた。
丸なのか四角なのかわからない。点なのか線なのか見分けがつかない。何を書いているのかわからない。
筆圧もどんどん薄くなっていった。
最後は、ぐしゃぐしゃにかいたよくわからないものが薄く書いてあって、最後のページは白紙だった。
………なんやこれ。見てると嫌な気持ちになる。
俺は黙ってスケッチブックを閉じた。
「……お前、キリキリちゃんが帰って来なかったらどうするつもりやったん?」
気分を変えるために不死川に話しかけた。
不死川は最初は黙っていたが、やがて話し出した。
「帰ってこないとか考えてなかったな。…アイツの居場所はここだって、俺は自信を持ってそう思い込んでた。」
「ああ、そう。ポジティブやね。」
「は…追いかけた方がいいときと、放っておいた方がいいときがあるから今回は後者だと思った。俺も冷静じゃなかったし。」
不死川ははぁ、と息を吐き出した。
「どうしたらよかったんだろうなァ」
そんなの、俺もわからへん。
不死川が悪いように見えて、あの子も悪いんかもしれへん。