第12章 雨晴らし
一連の話を聞き終わって、部屋はしんと静まりかえってしまった。
「私ね、ちゃんと幸せだったんだ」
阿国の声以外、何も聞こえてこなかった。
「でも誰もわかってくれなかったの。それが悲しくてたまらなかった。」
私は一切何も話さなかった。
「誰かに、わかってほしかった。それだけなの。私の願いはそれだけだったの。ごめんなさい、こんなことになるはずじゃなかったの。」
「……ううん、そんなことはないよ。」
阿国がまた泣きそうになるので久しぶりに声を出した。
震えていたかもしれない。少し小さく掠れた声は静かな部屋によく響いた。
「大丈夫、私はあなたのせいで死なないから。」
「でもっ、痣者は…!!!」
「大丈夫。」
私は安心させるように微笑んだ。
「もう鬼はいないの。何百年の間、みんなで頑張って倒したんだもん。だから怯えて生きていくことはしなくていいんだよ。」
「……けど、けど…」
「痣には負けないから。もうこれ以上泣かないで。ね?」
阿国の涙を拭う。
こうして顔を見れば見るほど自分にそっくりだと思う。
「阿国のこと…許してくれるの?」
「?最初から怒ってないよ?強いて言うならちょっと驚いたかな、まさか自分が始まりの剣士の祖先だなんて思ってもみなかったし…。」
私はクスリと笑った。
「もしかしたら、全部偶然じゃなくて必然だったのかもね。」
「…必然」
「うん。鬼のせいでたくさん苦しめられたけど、鬼のおかげであなたも私も自分の居場所を見つけることができた。きっと全部繋がっているのよ。」
明るくそういうと、阿国はキョトンとしていた。
「…なんか、不死川先生の気持ちがわかる気がする。」
「え!?急に何の話!?」
「あなた不思議ね、どんな時でも笑っているんだもの。」
「…ああ、それは、まあ…あはは……。」
別にふざけているわけでもなんでもない。
「笑っていると元気が出るでしょ?私だって泣くのは好きじゃないもん。」
「…だからって、そんな理由で笑える人もそうそういないよ。」
そう言って阿国は笑った。
長い間話していたが、笑顔を見たのは初めてだった。