第80章 大バカ野郎どもへ
不幸比べとかするつもり全然ないけど、あの子の生い立ちの方が俺より過酷やと思う。
「知られたくないことってあるやん?自分が好きな相手なら尚更…。ほら、あの子いいカッコしいやんか。不死川にだけは綺麗な自分見せたかったんちゃうかな。」
「……」
「悩んでたと思うで。言えばいいのはわかっとったと思う。だけどそれがあの子には毒でありストレスや。」
話したら楽になることくらいわかってる。
でも。
「俺は話せば話すほど心が消えていく気がすんねん。不死川、お前は話してもらえれば満足やろうと思うけど、キリキリちゃんはそうやないねん。
キリキリちゃんは自分のこと受け入れてもらったことあんまないから、多分トラウマみたいなもんがある。怖がってんねん。すごい臆病や。お前に嫌われたくない一心やったんよ。」
キリキリちゃんからしたら、唯一手に入れた、たった一つのものだ。
「キリキリちゃんは、大切にされたことのない子や。子供を愛するのは親の役目やけど、あの子の親はそれをせえへんかった。だから、愛される自信がない。
都合のいい自分を演じて、みんなが喜びそうなことをして、それでようやくあの子の幸せは成り立つんや。
…キリキリちゃんにとって、不死川は自分を1番大切にしてくれる唯一の人や。」
あの子は本当に、しがみつく子やった。
鬼のせいで苦しんだのに、最後は鬼にもしがみついた。
「でも不死川はちゃうやろ。お母さんいて、弟たちいて…。あの子とはちゃうやんか。
キリキリちゃんは、今自分の中にあるもんこぼさへんように生きてんねん。でも…あの子も人間なんやから失敗する。
………自分の汚いところ隠して、それで生きて行くのが正解なんて思い込んだんや。」
「…っ」
「でもそれが間違いだと教える人も、自分の全部のこと打ち明ける人も、あの子のそばにはおらんかった。ええか、不死川。あの子が前世でよう言っとったんや。」
窓ガラスに雨が打ちつけた。
…そういえば、夕方から雨やって言うとったな。
「『家族は血のつながった赤の他人』って。」
「…」
「その通りやわ。所詮一緒に暮らしていても他人や。」
俺は雨の中、車を走らせた。
「他人やで、俺もお前も。お前はそれをわからんと、踏み込んだあかんところまであの子に近づいたんや。」
少し声を荒げ、俺はそう言った。