第80章 大バカ野郎どもへ
「なんや知らんけど、キリキリちゃんがそれ言うってことはやばいんやろうな。」
猫の面倒をみきれない。
あの子は滅多にそんなこと言わへん。これは不死川に出されたSOSも同然や。
「今からキリキリちゃんの家連れて行くけど、その後のことはお前が考えや!」
「……アイツ、今どこにいるんだ?」
「ど田舎のボロ家にいるわっ。」
「!……俺は実家にいるもんだと…」
俺は山道を走り、なるべく近道を選んだ。
……しかし、どんなに急いでも半日はかかる。
「喧嘩の原因とか知らんけど、お前何言ったんよ?キリキリちゃんにどっちが悪いのか聞いたら、知らん言いよったで。」
「……アイツ、すげぇ無茶苦茶したんだ。下手したら死んだかもしれねぇようなこと。それを全部俺に黙ってたんだ。」
「…はっ、隠し事か。」
ああ、なんとなく察した。
「俺もあの子のああいうところ大嫌いや。」
「そうだな。……なんで、あんなに必死に隠そうとするんだろうな。」
「………なぁ不死川。」
俺はため息まじりに話し始めた。
「俺、家で息できひんかってん。」
「…はぁ?」
「息してたら父親に蹴られんねん。」
そう言うと、不死川が息を呑むのがわかった。
「生きてるとうざいんやって。だからな、息止めるようにしてん。最初は10秒しかもたんくて、やっぱ蹴られた。で、そんなことしてたら最後は5分くらい我慢できるようになったわ。
ま、そうなったら親父はDVバレて逮捕されたけどな。そのタイミングで母親と京都から東京越してきて、キメツ学園に入ってん。」
俺はにこりと笑った。
「お前、こんな話を平気で友達全員にできると思うか?」
「…いや」
「やろ?俺も父親が逮捕されたとか言いたないし。」
今まであまり家族の話とかしてこなかった。多分、俺が母子家庭ってことも不死川は知らんかったはずや。
「キリキリちゃんはもっと重かったんとちゃうか。」
「……」
「別に秘密にしたいわけでも、話したくないわけでもないんや。」
赤信号で止まる。
「そうする他なかったんや。」
あの子の葛藤が、俺はよくわかる気がする。