第79章 こんなの聞いてない!!
目を覚まして、私は大きなあくびをした。
朝早くからのそのそ動いておはぎのエサを用意した。いつもより多めに皿に出したら、もう中身は空になった。
「おはぎ、おいで」
呼ぶとおはぎはすぐに来た。
「いい?実弥が来るから、ちゃんと出迎えるのよ。私は遠くに出かけなきゃいけないから。」
『わかった。その間に、外の奴らと遊んでいいのか?まだご飯の気分じゃないんだ。』
…外の奴らって野良猫たちのことかな。お友達ができたみたいでホッとする。
「いいけど、実弥が来るまでお庭の柵を飛び越えないでね。おはぎがいなかったら実弥が悲しむよ。」
『うん。』
おはぎを撫でてやるとスッと目を細めた。
『男が来たら足に飛び付いてやるんだ。アイツはきっと驚くな。』
「そうね」
撫で終わると、満足とでも言いたげにおはぎは走っていった。
……さぁ。
行こうか、最後のお出かけ。
おじいさんから助産師さんの家の場所を聞いていたので、そこまで歩くことにした。
どうやらそこでこじんまりと、小さくだが産婦人科をひらいているらしい。
昔、あの家に住んでいた女の人が男の画家に頼りっぱなしなこの地域の状況を見て医者を呼び込んで設立したらしい。…どんなお金持ちだ、全く。
必要最低限のものを持って本数の少ないバスに乗った。
外の景色は右から左へと流れていく。
私は、来るべき時を少しずつ感じていた。