第79章 こんなの聞いてない!!
命は一瞬の灯火。
線香花火のように落ちて、消える。
私は生まれたときから火なんてついてなかったんだと思う。
幸せになるために人間は生まれてくるけど、幸せになれる保証はない。
だってそうだろう。
不幸自慢がしたいわけでも、悲しみを知ってほしいわけでもない。
ただ、『辛い』って泣いたら、誰かに『辛かったね』と。
言ってほしいだけの人生だった。
立ち直りたいわけじゃない。
前を向きたいわけじゃない。
それなのに、贅沢に、色んなものを教わった。
いつの間にか死ねなくなった。
私には重すぎた。
色んなものを教わって知っただけ。理解なんてできてない。私そんなに賢くない。
それでも理解したみたいに、偉そうにふるまった。
嫌われていたのに鬼殺隊にしがみついた。そこ以外行くところがなかったから。
私を生かしたのは鬼殺隊。殺したのも鬼殺隊。
私を喜ばせたのも鬼殺隊で、泣かせたのも鬼殺隊。
鬼のせいで苦しんだのに、鬼のせいでしがみつく居場所ができた。
命は、尊くて、美しいものだと知った。
でも自分が殺したとそう思い込んでいた父親の命をそうだとは思えなかった。
それならきっと、私の命はみんなにとって醜いのだろう。
『死なないでほしかった』と泣かれる人を見るたびに羨ましがった。
きっと私が死んだらみんな言うだろう。死んでくれてよかったと。
死にたくないなと初めて思ったのはその時かもしれない。
死んだら生きているとき以上の罵倒が待っている気がした。怖くなったのを覚えている。
生きていることに何の幸せがあるのかわからなくなった頃、あの結婚式に呼ばれた。
普段着ない着物で参加した。
白無垢を着た女の人が、にこにこ笑っていた。
衝撃だった。
私もあの白無垢を着たら幸せになれるのかと思った。
子供ながらに理解する。
(あの人が幸せなのは隣に男がいるからだ)
一緒に道を歩く、誰か。
私には一生手に入らないものだとわかっていた。
逃げるようにその場をあとにして、『もう帰ってきたの』と言う安城殿を前にすると気持ちがおさえきれなくなった。
何に反発したのかわからない。
それでも、全身全霊で、心から『嫌だ』と叫びたかった。