第79章 こんなの聞いてない!!
呼吸で、お腹の子を守ろう。
思い立ったのは妊娠初期だ。
そんなことできるのか。いや前例がない。
でも赤ちゃんに繋がるへその緒、赤ちゃんを守る臓器の血管をいじれば造作もないことだ。…と気づいたのも妊娠初期だ。
呼吸の使い手でよかったと何度も思ったよ。おかげでずっと難を逃れ続けた。
「……」
産婦人科から最寄のバス停に降りて、息を吐き出す。
呼吸を解除。
すると、みるみるうちにお腹は痛くなった。苦しそうにお腹の子も動き出す。
私は一歩ずつ足を前に出した。
産婦人科について受け付けに行くと、綺麗なところだった。
しかし私を見た瞬間に周りの看護師さんたちが慌て出した。状況を察してくれたのかもしれない。
すぐさま病室につれていかれ、その瞬間に破水した。
陣痛が来た。なんか意味のわからない経験したことのない痛みに悶絶。
…つ…悪阻って、もしかしたら優しい段階の痛みだったのか…っ!?
ってくらい。
「あの…あなた、見たことないけどここら辺の人?引っ越してきたの?」
黙ってコクコク頷く。
「旦那さんは?」
私はブンブン首を横に振った。
「わ、わかったから、落ち着いて…ええと、出産は初めてよね?」
コクコクと頷く。
……そしてこんな得体の知れない痛みも初めてです!!!
普段なら大抵の痛みは堪えられる。動ける。
でもこれ無理!!何これ!?!?なんか、想像と全然違う!!陣痛が一定の期間で来るって言うのは知っていたけど、なんかもう痛い時と痛くない時がわからん!!!
こんなの聞いてませんけど!?
何あのネットに載ってたキラキラ出産エピソード!!どんな徳積んだらあんなことになるんだ!!
『陣痛きたかわからなかった笑』『そんなに痛くなかった』とかネットの言葉が全部嘘に思えてくる…!少なくも笑えませんが!?
(…全国の母親を尊敬する…!!)
自分の母親はこれを三回?は?嘘だろ?
なんか、ありがとうって気持ちだ。
すうっ、と息を吸う。
…痛いのは当然だ。落ち着こう。
……大丈夫。
痛いのは、生きている証。