第78章 昔からの憧れ
ひとまず近所に挨拶に行こうとお菓子だけを持って外に出た。
おはぎは新たな仲間たち(野良猫)と遊んでいるのでおいていくことにした。
…これなら、おはぎが1人になることもないかな。
あの子にとってもいい場所みたいでホッとした。
本当は実弥のところにいてほしかったんだけど、私にくっついて離れなかったんだよね。
とはいえ田舎だから、ご近所さんが遠い。畑三つほど超えたところにようやく家が見えた。
隣近所はおじいちゃんおばあちゃんばかりで、女1人と猫一匹で越してきたというと驚かれた。
若い人が珍しいみたいでやたらといろんなものをくれた。野菜とかお米とか。お腹が大きくて持てないだろうと、おじいさんが軽トラに乗せてくれた。
「私軽トラとか初めて乗りました!!」
「楽しそうだねぇ」
「楽しいっす!!」
運転してくれたおじいさんははしゃぐ私をケラケラと笑った。
そして送り届けてくれたおじいさんは私の家を見て驚いていた。
「ああ、ここに住んだのかい。ずいぶん古いだろう。」
「はい、この古さが気に入ってるんです。」
「ちゃん変わってるねぇ。ここねぇ、有名な画家が住んでたんだよ。日当たりも悪いし猫は住み着くし、何がいいんだかってねぇ。」
「へえ!」
そういえばアマモリくんはお偉いさんって言ってたけど、それだけすごい画家さんだったのかな。
「若い頃に一回だけ会ったよ。ちゃんと同じで猫一匹と人間一人で暮らす男の人でね。
気難しい人だったけど、医療にも詳しくてね。いろいろ教えてもらったよ。だいたい子供が生まれるってなったらあの人のところにみんな行ってたんだ。」
「すごい人だったんですねぇ。」
「最後の方はねぇ、なんか愛想のない女の人と一緒に住んでたよ。恋人かってうちの親父がその画家さんに聞いたら、そんなんじゃないってね。猫がよくなついてたのを覚えてる。」
おじいさんは懐かしいのか夢中で昔のことを語っていた。なんだか興味があったので私も聞き入った。