第77章 世界一の辛さ
「先輩は、私の師範みたいなものだからね!」
なんといえばいいかわからないけど、天晴先輩が私の特別であることは変わらない。
「へぇ、なんか教えてもらったのか?」
「うん。…全部教えてもらった。」
テレビの中の先輩は嬉しそうに笑っていた。楽しそうだ。
……先輩とも昔みたいに過ごしてみたいな。無一郎くんと旅行したみたいに。またいろんなことを教えて欲しい。
「私、鬼殺隊に出会った頃全く話せなかったんだよね。」
気づけば昔語りをしていた。
実弥は興味もないし聞いていないだろうと思った。
「もういろんなところたらい回しにされて、寺に連れて行こうかってなっても凶暴すぎて手がつけられなくて…最終的に箱に詰め込まれたかと思えば柱の前に真っ裸で放り出されたんだよね。
そしたらその時の炎柱が拾ってくれたんだけど、私があんまりにも何もできなくて困らせちゃって。それで最後に面倒見てくれたのが天晴先輩なんだ。
それで一回自立して鬼殺隊で働くようになったけど全然ダメで、その時に助けてくれたのも天晴先輩。霞柱になるまで、たくさんお世話になったんだよなぁ。」
独り言だと思って小さい声で細々と話していたのだけど、いつの間にか実弥が私の向かいに座っていた。
驚いてテレビから目を離して咄嗟に体を向き合わせた。
「…好きなのか」
「ん?」
「あの人のこと好きなのか」
なんて、真面目な顔で聞いてくるもんだから。
「…ふっ」
「笑ってんじゃねえ!」
「ぷっ、くくっ、あ、天晴先輩は、す、好きだけど、ふっ…ふふっ…そんな顔されたらもう参っちゃうよ。」
私は一通り笑ったあと、また彼に向き合った。
「なんかねぇ、多分私みんなのこと好きなんだと思う。」
「…そうかい」
「実弥はそれだといや?」
実弥は肯定も否定もしない。
「……でもね、私が好きって言っても、みんなが私を好きでいてくれるわけじゃなかったんだ。」
そうこぼすと、彼は少しだけ目を泳がせた。