第77章 世界一の辛さ
「ただいま!」
何か言われる前に大きな声で言った。すると実弥は玄関を見てギョッと目を見開いた。
「お前こんなに買ったのか!?」
「タイムセールしていたので!!」
「阿呆か!!こんなに荷物持って歩く妊婦がいるか!!」
私がおよ、と声を出すまもなく早く上がれと背を押される。
「いったい何をこんなに…あっ、おい、なんでこんな大きな醤油買ったんだよ、」
「めちゃくちゃお得だった」
「〜〜荷物重くなるだろうが!!なんで迎えに来いって呼ばねえんだよ!」
「大丈夫大丈夫、おはぎも買ってきたよ。」
「何が大丈夫??????」
おはぎを渡すと実弥は何も言わなくなった。わあ、おはぎ効果すげぇ。
「もうお前は座ってろ」
最後にそれだけ言われて実弥は私を椅子に座らせた。
彼はテキパキと買い物袋から荷物を取り出して片付け、料理の支度を始めた。
…ああ、今日は実弥が作ってくれるのか。
「いーくん見ていい?」
「却下」
「見よ」
いやそうにしていたけど昨日録画した歌番組を見た。
はあ、好き。格好いい。
「ねぇ聞いて。実弥。」
「あ?」
「いーくんの髪型が変わった!!」
「世界一どうでもいいわ」
「宇宙一大切なことだよ!!!」
私はじいっとテレビに見入った。
「わーーいいなー新しい髪型…好き……」
思わずポロッと口からその言葉をこぼすと、台所からドオン!!!と大きな音がした。
え?何事?
恐る恐る台所を振り返ると、実弥が大根を真っ二つに割っていた。
…まな板、絶対壊れたな。新しいの買おう。
とりあえずネットショッピングでポチる。
ひとまず歌番組は全部見て、終わったらチャンネルを変えた。
するとそこに天晴先輩が映っていた。そういえば、怪我でしばらく仕事を休んでいてから復帰はしたものの、まだ本格的に活動できてないんだっけ。
「わ〜あの人、やっぱりテレビで見ても綺麗だよねぇ。本当に美人。」
「そうだな。…お前、本当にあの人のこと好きだよな。」
いやみったらしくそう言われ、私は少しムッとした。
「先輩は…」
そっか。
実弥には、言ってないか。私がまだ何もできない頃、あの人と暮らしていたこと。
……そういえば、安城殿と一緒に暮らしていた時も…多分、うまくいっていたんだよね。