第2章 混濁
「あ……」
声が出にくい。
喉が痛い。
ああ、夢の中ではあんなに話したのになあ。だから疲れちゃったのかなあ。
「あぁー、……う………」
傷だらけの、愛おしい顔。
ガラスの傷と同じ。おはぎの模様と同じ。
言葉が話せなかった。
けれど、実弥は答えてくれた。
「…お帰り………」
実弥は微笑む。
だが、その目に涙が浮かんでいた。
「、良かった、本当に」
髪飾りの女の子。ああ、わかるよ。カナエだ。
こちらは泣いている。
「…うー……」
「うん、うん。大丈夫よ、わかっているから。お帰り。お帰り。頑張ったのね。大変だったわね。」
カナエは泣き続ける。
そして三人目の顔が見えた。
幼さの残る、長髪の青い目をした男の子。
「……師範…」
その声は震えていて、ボロボロと泣いていた。
ああ、そう。
泣くんだね。泣けるようになったんだね。
あんなにも空っぽだった君が。
「う、…あ」
「ごめんなさい、僕に、会いたく、なかった、って、聞いてたけど」
無一郎くん。
私の大切な、大切な子。
「良かった、また、僕、置いてかれちゃうんじゃないかって」
無一郎くんは私にしがみついてシクシクと泣いた。嗚咽を漏れた。手が震えている。
「あんがとなァ、時透」
実弥が震える声で言う。
私は頷くこともできなかった。体が動かなかった。