第77章 世界一の辛さ
那由多はじっと私の目を見つめた。
「春風…」
「……なんです?」
「お前、なんで俺をすぐ捕まえなかった?俺が父親を殺したことはもう立証されてるんだろ。俺はお前にちゃんと全部話したよな。」
その事実に、思わず呆然。
「さあ?なんのことです?」
「…お前、証拠手元に置いてるんだろ。知らねえぞ。」
「何を言っているのか全然わかりません」
春風さんはにこーっと笑っていた。
…この人、そこまでやるか……!!!
「素直じゃないところは…あなたたちの共通点みたいですし、ちょっと鎌かけただけですよ。」
「……」
「那由多さん、あなたが守ろうとしたのは他の誰でもないさんなんでしょう?」
春風さんは那由多の方をぽんぽんと叩いた。
「父親を殺した自分から遠ざけようとした。憎まれたくてこんなことをした。違いますか?童男と母親を襲ったのもそういう理由でしょう。もともと殺す気なんてなかったくせに。」
「…」
「弟妹と母親をいつまでも人殺しの家族にするわけにもいきませんからねぇ。」
那由多は黙る。
「自己犠牲は霧雨の美徳みたいですね。」
春風さんはそう言った。
私はぐっと拳を握る。
「会社を作って弟にはお金と仕事を残した。母親には施設という新たな場所を用意した。妹には、霧雨からの解放を与えた。……あなたの計画は完璧でした。これであなた以外の家族はハッピーエンド…。
しかし、どうもそれが気に食わない人がいましてね?」
春風さんは私に目くばせをした。
「すみません、邪魔しちゃいました。じゃあそろそろみんな来るので動いてもらっていいですか。」
結局最後まで春風さんの手のひらの上でゴロゴロと転がされただけだった。
那由多は連れて行かれ、私は病院へ。とはいえ血は止まっていたので大したことはなく…。
でも吸う針縫うことになってしまった。